DISCユニットのHTS技術
HTS technology
HTSとは
HTS (High-throughput Screening)とは、多くの化合物について生化学的あるいは物理化学的な評価を実施し、創薬の標的分子に対して目的の活性を持つ化合物(ヒット化合物)を短期間で効率的に選抜する方法です。
ヒット化合物とは、宝石(薬)の原石(リード化合物)となる可能性がある化合物です。ただし、ヒット化合物がそのままリード化合物となるわけではありません。
まず、擬陽性のヒット化合物をカウンターアッセイ等で取り除かなければなりません。次に、得られたヒット化合物の周辺化合物探索や誘導体展開などを行い、これから合成展開していくためのスタートとなる化合物(リード化合物)を、活性・物性・薬物動態・安全性などの面から探索します。その後、リード化合物の更なる最適化を行い、前臨床試験の候補となる化合物を創出していきます。
HTS はこの創薬プロセスの初期段階に位置します。そのため、HTS で選抜した化合物の質がその後の創薬プロセスの効率や創薬プロジェクトの成否に大きく影響するのです。
短期間で膨大な化合物の評価を実施し、目的の活性を持つヒット化合物を選抜するためには、適切なアッセイ系の構築をはじめ、評価する化合物(化合物ライブラリー)の整備、アッセイプレートの作製、アッセイの実施、測定データの解析と一連の研究プロセスの効率化が必要となります。DISCユニットでは、最先端の設備と豊富なHTSの経験をもとに有用なヒット化合物を選抜するため、効率的で高品質な HTS を実施します。
DISCユニットでのHTS技術

ミニチュア化技術
HTS では数万規模の化合物を評価するため、高密度マイクロプレートを評価に用います。
DISCユニットでは 1μL 以下の超微量分注が可能な機器を導入し、アッセイ系のミニチュア化を進めるとともに微量反応溶液のアッセイ系においても高精度なデータが得られる工夫を続けてきました。
現在、DISCユニットでは、細胞系は 1536 ウェル、非細胞系では 1536 もしくは 3456 ウェルのマイクロプレートを用いた HTS が標準です。超微量反応溶液のアッセイ系であっても、高品質なデータの提供が可能です。
96 ウェルと比べて 1536 ウェルのマイクロプレートでは、HTS で使用する材料の大幅な削減(1/20程度)に繋がります。
その結果、プレート 1 枚あたりの化合物数は 16 倍となり、HTS に必要な期間も短縮することができます。

検出技術
DISCユニットでは 1536 ウェル以上の高密度フォーマットに対応した測定機器を使用することで、発光・蛍光・吸光などの測定処理スピードの飛躍的な向上を実現しています。
例えば、非細胞系の発光アッセイでは、1日あたり 10 万サンプル以上の評価が可能です。
さらに、DISCユニットでは、多種多様な検出技術を用いた HTS も実施しており、各アッセイに対して最適な測定方法を選択できます。

MALDI-TOF/MS
従来、質量分析(MS)により標的分子の分子量関連イオンを直接検出する方法はスループットが低く、HTS への適用には課題がありました。
しかし近年では、MS装置のハイスループット化が進み、HTS への積極的な活用が期待されています。
MSによる HTS は、従来の蛍光・発光法を利用したアッセイとは異なり、完全なラベルフリーアッセイであり、評価系内に存在する物質の質量変化を直接モニタリングすることで、評価系に依存する偽陰性・偽陽性を減らすことができます。
DISCユニットで使用する超高速MS装置である MALDI-TOF MS(rapifleX、Bruker 社製)は、1536 ウェル以上の高密度マイクロプレートにも対応しており、1日あたり 10 万サンプル以上の超高速 MS スクリーニングが可能です。

細胞内シグナル変動の経時的検出
イオンチャネルやトランスポーターは、以前は簡便でハイスループット化された評価系が確立されておらず、HTS には不向きな標的でした。
しかし、近年では種々のハイスループット化された評価系が確立されたことで、これらの標的を対象とした研究が盛んになっています。
DISCユニットで使用する FDSS 7000EX(Functional Drug Screening System、浜松ホトニクス社製)は、細胞内イオン (Ca2+, Na+, H+等)濃度の変化、膜電位変化、トランスポーターの基質の取り込みなど細胞内のシグナル変動を光学的・経時的に検出することができます。
本システムは、1536 ウェルのマイクロプレートにも対応しているため、細胞系のHTSでも高速処理が可能です。

細胞イメージング解析
細胞イメージング解析では、取得したデータを画像解析することで細胞内で起こる複数のレスポンスを同時にかつ客観的に検出することができます。
特にフェノタイプスクリーニングで活用が期待される測定技術です。DISCユニットで使用する Opera Phenix(PerkinElmer 社製)は、細胞内局在化・形態変化・増殖能・タンパク質間相互作用・タンパク質分解機構などを指標とした細胞イメージング解析が、1536 ウェルマイクロプレートで実施可能です。