確かな評価系構築を目指して 「誰でも再現できる」は意外と難しい
第7回 確かな評価系構築を目指して 「誰でも再現できる」は意外と難しい
第一三共RDノバーレ株式会社
生物評価研究部 HTSグループ
三浦 早苗
論文に掲載された実験を、記載通りに実施したにもかかわらず、結果が再現できなくて困ったという経験はないでしょうか。DISC事業では、アカデミアの先生方が提案されたユニークな研究テーマに携わることになり、当社の持つノウハウや技術を駆使して評価系の構築を進めていきます。社内研究ではこれまで行ったことがなかったような新しい検討を行うこともあり、我々も、論文に掲載された結果を再現できないことをしばしば経験します。
そういうこともあり、私たちの試験結果では再現性も重要な要素とみなしています。今回は、再現性を保証するための取り組みを紹介します。
社内外で再現性のある評価系構築の取り組み
DISC事業は、会員企業から提供されるライブラリーを用いて、アカデミア発の創薬シーズ(創薬標的)に対して候補化合物のスクリーニングを行う産官学が連携した取り組みです。約30万の化合物からHigh Throughput Screening(HTS)により目的の活性を持つ化合物を選抜した後、会員企業による導入評価が行われます。導入決定後は引き続き会員企業やアカデミアの先生のラボで評価が進められます。つまり、当社で構築した化合物の評価系は、社外においても確実に再現されることが必要になります。
評価系の構築においては、再現性が得られる条件を設定するために、さまざまなことに注意しています。例えば、酵素活性を指標とする評価系では、酵素活性を安定して検出するために種々の条件(酵素濃度や反応時間、添加物の有無など)を検討し、バリデーションされた系を確立します。ミニチュア化に対応したHTS専用の機器を使用して、得られた試験条件を再現するかが我々の腕の見せ所でもあります。アッセイ系の確立が困難な場合など、いろいろな可能性を考えて条件を考慮し、当初の酵素活性の検出手段とは全く異なる方法などを駆使して、何としてもHTSまで辿り着けるよう粘り強く取り組んでいます。
社内で安定的に再現可能な評価系を構築できたとしても、社外において同じ結果を再現できるようにするためには、実はまだ足りないことがあります。どのような材料を準備し、どのような手順で行うかとなどの情報を正確に相手に伝えなければなりません。隣の実験台の人に伝えるのであれば、「分からなければ聞いてくださいね」と言えますが、DISC事業では書面のみですべてを伝える必要があります。そのために、提出資料は何人もの校閲を実施し、提出資料や報告書はわかりやすく、先生方に正しく理解していただけるものを目指して作成しています。
確かな評価系構築を通じて創薬の一端を担う事業を目指す
今回は、再現性のある評価系をどのように構築しているのか、その中には相手に正確かつわかりやすく伝わるための努力も含まれていることを紹介しました。このようなDISC事業を通じた貴重な経験は、私達の技術力や能力の更なる向上にもつながっていることを実感しており、次のDISCの研究に活かされていくと思っています。
DISC事業から日本発の新薬が生まれることを願い、目的の化合物を取得可能な評価系をこれからも作っていきたいと思います。DISC事業が日本の創薬に欠かせない存在として認知され、私たちの技術やノウハウがなくてはならないと言ってもらえるよう私たちは日々努力を続けています。
関連ページ
・DISCユニット事業内容
https://www.id3disc.jp/disc-unit/
・DISCユニットのHTSコンサルティング
https://www.id3disc.jp/disc-unit/consulting/
:アカデミアの先生方と議論を重ねながら評価系を構築します。再現性が求められる技術移管などの確認も、必要なステップを踏みながら行います。