DISCにおけるデータの信頼性について~私のこだわり、My Pride~
第2回DISCにおけるデータの信頼性について ~私のこだわり、My Pride~
第一三共RDノバーレ株式会社 生物評価研究部 HTSグループ 杉原 千加
研究データを保証する
今回は、ハイスループットスクリーニング(以下、HTS)研究者の視点から、DISCで取得するデータの信頼性についてお伝えします。その前に、医薬品開発における「信頼性保証」について、少しだけ紹介させて下さい。
医薬品開発における「信頼性保証」とは、安全性、有効性に関わるデータや製品の品質が法律あるいは規制を満たしていることを保証する業務を示します1)。医薬品の承認申請をするためには幾つもの試験を行う必要があります。そして、承認申請時には、試験成績を掲載した申請資料が、法律あるいは規制に従って作成されているか調査されます2)。すなわち、それらの試験は長年かけて育て上げてきた化合物を医薬品にするための重要な試験となります。
一方で、私たちが行っているDISC事業におけるHTS は医薬品の種を探す研究(ヒット化合物をイメージする、第1回コラム)です。ここで強く認識しておかなければならないのは、創薬研究のスタート地点であると同時に医薬品開発のスタート地点でもあることです。
私はHTS業務を担当する前に、医薬品の承認申請に関わる試験(以下、申請試験)に携わっていました。DISCでのヒット化合物を選抜する過程において、この時の経験が活かされています。
データ信頼性、申請試験からの学び
仕事をする上で、みなさんがこだわるポイントは何でしょうか?私にとってこだわるべきポイントは、この「信頼性の確保」です。
HTSは超微量で多検体を扱うため、実験系の制御が難しいプロセスですが、仕事である以上、それは依頼者からの信頼の獲得と依頼者の満足に繋がるものでなければなりません。私たちは如何に信頼性を確保するかに日々、取り組んでいます。また、多様でユニークなアカデミアシーズに対しても、自信をもって信頼性の高いデータをアカデミアにお返しできる体制で臨んでいます。記載や計算の間違いが度々続くと、この実験の結果は本当に大丈夫なのかとその信頼性に疑問をもち、不安になってしまうでしょう。さらに、“もし実験に使用した機器や試薬がきちんと管理されていなかったら、もし報告書の記載に間違いが多発していたら、…”せっかく最先端技術で精密な実験を実施していたとしても、その結果を信用してもらえないでしょう。ましてや、会社間のやり取りでこのような事があったら、会社自体の信用問題に発展してしまいます。
とはいえ、依頼者からしてみれば、データの信頼性は担保されていて当然のことです。データが信頼できると信じているからこそ、HTSに貴重なリソースを投資していただけるのだと思います。そして当然のことであるが故に、逆にもしミスや間違いが発覚するようなことがあれば、すべてが台無しになりかねないのです。
私が申請試験に従事していた頃は、試薬の納品記録からワークシートまで、記録という記録は全てダブルチェック、PCに入力したデータは全て紙で出力して読み上げながらのダブルチェック、計算式も紙に出力して確認、といった方法でチェックをしていました。この時、私は信頼性を確保することの難しさを知ると同時に、そのマインドが染み付きました。
DISCにおける信頼性の確保、これこそMy Pride
私の経験の中で、重要と感じていたのはマニュアルやチェック体制をしっかり整備し、その内容、方法を明確にするということです。複数人で種々のチェックを実施した場合、具体的な方法が決められていなければ、チェックの内容はチェックする人毎に変わってしまいます。すごく細かく確認する人だと、時間も労力も掛かってしまいます。一方、大雑把な人だと、チェックの内容に不安が生じます。チェックする内容や方法を明確にしたマニュアルとチェック体制の整備により、時間も労力も限りがある中で、最も効率的で効果的な方法でデータの信頼性を確保しています。
依頼者にとってHTSの最大の目的は、「ポテンシャルの高いヒット化合物を選抜すること」です。この選抜の過程において、信頼性の確保は不可欠です。このようなプロセスは、普段はなかなか表に出ることはありませんが、私に染み付いた信頼性の確保のマインドこそが、私の誇り、“My Pride”です。
私たちのデータが依頼者にとって有用なものになるための努力を、日々続けています。安心してお任せください!
1 ) 一般社団法人、日本QA研究会Webサイトを参照、http://www.jsqa.com/whats/
2 ) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構Webサイトを参照、https://www.pmda.go.jp/review-services/inspections/0001.html